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おだのぶなが

織田信長

坂口 安吾

「季刊作品 第一号」創芸社、1948(昭和23)年8月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,950 字 · 36 页

青空文庫

悪童信長は街を歩きながら、栗をくい、餅をほおばり、瓜にかぶりつき、人の肩によりかゝったり、つるさがったりしなければ歩かなかった。呆れ果てたるバカ若殿、大ウツケ者、それが城下の定評であった。

信長を育てた老臣平手中務は諌言の遺書を残して自殺した。その忠誠、マゴコロは、さすがの悪童もハラワタをむしったものだ。悪童は鷹狩で得た鳥を高々と虚空へ投げて、ジジイ、これを食え、と言った。水練の河辺に立って、時々ふと涙ぐみ、川の水を足で蹴りあげて、ジジイ、これをのんでくれよ、と叫んだ。おのれを虚うするものゝみが、悪党の魂に感動を与える。信長が秀吉の忠誠に見たものも、おのれを虚うするマゴコロだった。家康の同盟に見たものも、それにちかい捨身の律義であった。不逞の野望児信長は、せめて野望の一端がなる日まで、マゴコロのジジイを生かして、見せてやりたかったであろう。然し、悪童の狂態は、ジジイの諌死にかゝわらず、全然変りは見られなかった。

マゴコロのジジイは大ウツケ者のバカ若殿の未来を按じて、隣国の斎藤道三の娘をもらって信長にめあわせた。斎藤と織田は美濃と尾張に隣り合せて、年来の仇敵であり、攻めたり攻められたり、互角に戦って持ちこたえたが、バカ若殿の代になると、たちまちやられる憂いがある。