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わなにかかったひと

罠に掛った人

甲賀 三郎

「探偵」駿南社、1931(昭和6)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,112 字 · 21 页

青空文庫

「証文はお前の女房が破って終ったがな」

玉島は情けなさそうな顔をして云った。

「よう、破った、ふん」

友木は伸子を静かに抱き起して訊いた。

「お前破ったのか」

「ええ」

死人のように蒼ざめた顔ではあったが、彼女は割にしっかり答えた。

「証文は破っても金高は覚えているだろう」

友木は玉島に云った。

「うん、そら覚えとるとも」

「それじゃ云って見ろ。証文がなくなれば返えさなくても好いのだが、俺はお前見たいな卑しい人間と違って、そんな事は嫌いだ。払ってやるから、金高を云え」

「えっ、払って呉れる? 夢じゃないかいな。金高は元利合計で、二百二十八円と四十六銭じゃ」

「よし」

友木は懐中から紙幣束を引摺り出して、覚束ない手つきで数え始めた。

「さあ、ここに二百三十円ある」

「夢じゃないかいな。生命を取られるかと思うたら、金を返えして貰えるなんて、こんな有難い事はないて。油断さして置いて、又、短刀でブスリとやる積りじゃないか」

「黙れ。愚図々々云わないで早く受取れ」

「何や、気味が悪いな」

玉島は恐々紙幣を受取って、馴れた手つきで数えた。そうして、友木が全く金を返えして、別に害心のない様子を見て取ると、今までの悄気た様子はどこへやら、急に顔を輝やかして、ホクホクし出した。