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わなにかかったひと

罠に掛った人

甲賀 三郎

「探偵」駿南社、1931(昭和6)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,112 字 · 21 页

青空文庫

彼は夢中になって食パンに食いついた。それから林檎に齧りついた。

腹が十分になって少し余裕が出ると、彼は久しく吸わなかった、煙草が無性に欲しくなった。彼は再び外に出て煙草を買った。胡坐を掻きながら、一息煙を吸うと得も云われない気持だった。つい先刻死を決した自分が、恰で別人のように思われた。

妻はどうしたのか中々帰って来なかった。

彼は悠然と構えてはいたが、実は一刻も早く妻の顔が見たいのだった。早く彼女と喜びを分ちたかった。が、妻は容易に姿を見せないのだった。

彼は少し不安になって来た。彼女の身に何か異変が起ったのではないか。もしや自動車にでも轢かれたのではなかろうか。或いは金策が出来ない為に、無分別な考えを出したのではなかろうか。彼の不安は次第に募って来た。

もしや彼を見限って逃げたのではなかろうか。万々そんな事はないと思いながら、友木は悪い方へと考えが向くばかりだった。

いや、矢張り果ない望みをかけながら、知人から知人へとうろつき廻っているのだろう。友木は考え直した。然し、それにしては遅過ぎる。事によったら自動車に――友木は気が気でなかった。

この時、ふと彼は部屋の中に変ったものを見つけた。