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うつくしいむら
美しい村
堀 辰雄
序曲「大阪朝日新聞」(「山からの手紙」の表題で。)1933(昭和8)年6月25日、美しい村「改造」1933(昭和8)年10月号、夏「文藝春秋」1933(昭和8)年10月号、暗い道「週刊朝日 第25巻第13号」1934(昭和9)年3月18日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,946 字 · 84 页
そうしてそれらの一むれの灌木そっくりにこんがらかったまま、それらの少年時の愉しい思い出も、悲しい思い出も私に蘇って来るのだった。私はそれらの思い出に、或は胸をしめつけられたり、或は胸をふくらませたりしながら歩いていた。私は突然立ち止まる。自分があんまり村の遠くまで来すぎてしまっているのに気がついて。――そんなみちみち私の出遇うのは、ごく稀には散歩中の西洋人たちもいたが、大概、枯枝を背負ってくる老人だとか蕨とりの帰りらしい籃を腕にぶらさげた娘たちばかりだった。それ等のものはしかし、私にとってはその村の風景のなかに完全に雑り込んで見えるので、少しも私のそういう思い出を邪魔しなかった。もっとも時たま、或る時は私があんまり子供らしい思い出し笑いをしているのを見て、すれちがいざまいきなり私に声をかけて私を愕かせたり、又或る時は向うから私に微笑みかけようとして私の悲しげな顔を見てそれを途中で止めてしまうようなこともあるにはあったが……。
そんな風に思い出に導かれるままに、村をそんな遠くの方まで知らず識らず歩いて来てしまった私は、今更のように自分も健康になったものだなあ、と思った。