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うつくしいむら
美しい村
堀 辰雄
序曲「大阪朝日新聞」(「山からの手紙」の表題で。)1933(昭和8)年6月25日、美しい村「改造」1933(昭和8)年10月号、夏「文藝春秋」1933(昭和8)年10月号、暗い道「週刊朝日 第25巻第13号」1934(昭和9)年3月18日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,946 字 · 84 页
「羊歯をね」私は鸚鵡がえしに言った。それから私は例の白い柵に取り囲まれたヴィラを頭に浮べながら、「あの白い柵はいつ出来たの?」と訊いた。
「あれですか……あれは一昨年でした」
「一昨年ね……」
私はそれっきり黙っていた。爺やのいじくっている植木の一つへ目をやりながら。それからやっとそれに白い花らしいものの咲いているのに気がつきながら訊いた。
「それは何の花だい?」
「これはシャクナゲです」
「シャクナゲ? ふうん、そう言えば、じいやさん、このへんの野薔薇はいつごろ咲くの?」
「今月の末から、まあ、来月の初めにかけてでしょうな」
「そうかい、まだ大ぶあるんだね。――一体、どのへんが多いんだい?」
「さあ……あのレエノルズさんの病院の向うなんか……」
「ああ、じゃ、あそこかな、あの絵葉書にあった奴は。……」
その翌朝は、霧がひどく巻いていた。私はレエンコートをひっかけて、まだ釘づけにされている教会の前を通り、その裏の橡の林の中を横切って行った。その林を突き抜けると、道は大きく曲りながら一つの小さな流れに沿うて行った。しかしその朝はその流れは霧のためにちっとも見えなかった。