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うつくしいむら
美しい村
堀 辰雄
序曲「大阪朝日新聞」(「山からの手紙」の表題で。)1933(昭和8)年6月25日、美しい村「改造」1933(昭和8)年10月号、夏「文藝春秋」1933(昭和8)年10月号、暗い道「週刊朝日 第25巻第13号」1934(昭和9)年3月18日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,946 字 · 84 页
私の書こうとしていた小説の主題は、漸くその日その日を楽しむことが出来るようになったこんな田舎暮しの中では、いよいよ無意味なものに思われて来た。それに、そんなものを書くことは、自分で自分を一層どうしようもない破目に陥し入れるようなものであることにも気がついたのだ。「アドルフ」の例が考えられた。ああいうものにまで私は自分の小さな出来事を引き揚げたかったのだ。弱気でしかも自我の強いために自分自身も不幸になり、他人をも不幸にさせたところのアドルフの運命は又、私の運命さながらに思えたからだ。しかし、「アドルフ」の作者ほど、そういう弱々しい性格(恐らくそれは彼自身のであろうけれど)に対するはげしい憎悪も持っていない、むしろそういう自分自身を甘やかすことしか出来そうもない私がそんな小説の真似なんかしようものなら、それによって更にもう一層自分自身をも、又他人をも不幸にするばかりであることが、わかり過ぎるくらい私にはわかって来たのだ。……こういうような考え方は、私の暗い半身にはすこし気に入らないようだったけれども、この頃のこんな田舎暮しのお蔭で、そう言った私の暗い半身は、もう一方の私の明るい半身に徐々に打負かされて行きつつあったのだ。