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うつくしいむら
美しい村
堀 辰雄
序曲「大阪朝日新聞」(「山からの手紙」の表題で。)1933(昭和8)年6月25日、美しい村「改造」1933(昭和8)年10月号、夏「文藝春秋」1933(昭和8)年10月号、暗い道「週刊朝日 第25巻第13号」1934(昭和9)年3月18日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,946 字 · 84 页
はじめてこのフランスの古い小説をしみじみ読んでいますが、そのお蔭でだいぶ僕も今日このごろの自分の妙に切迫した気持から救われているような気がしています。この小説についてはあなたに一番その読後感をお書きしたいし、また黙ってもいたい。二三年前、あなたに無理矢理にお読ませした、ラジイゲの「舞踏会」は、この小説をお手本にしたと言われている位ですから、まあ、あれに大へん似ています。しかし「舞踏会」のときは、まだあんなにこだわらずに、その本をお貸しが出来たけれど、そしてそれをお読みになってもあなたは何もおっしゃらなかったし、僕もそれについては何もお訊きしなかったが、それでも或る気持はお互いに通じ合っていたようでしたけれど、いま僕は、あの時のようにこだわらずに、この小説の読後感をあなたにお書きできるかしら?
第一、この手紙にしたって、筆をとりながら、果してあなたに出せるものやら、出せそうもないものやら、心の中では躊躇っているのです。恐らく出さずにしまうかも知れません。……こんなことを考え出したら、もうこの手紙を書き続ける気がしなくなりました。もう筆を置きます。出すか出さないか分りませんけれど、ともかくも左様なら。