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うつくしきつきよ

美しき月夜

宮本 百合子

「中央公論」1919(大正8)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,063 字 · 18 页

青空文庫

鳥が羽摶く通りに身をもがくマーガレットの、恐怖と哀願と、そして極度の憤怒にかきむしられたような顔を眺めた。それを見ると、彼は、何でもかでも、マーガレットが、彼女の全生命で感じている、そのことを、きっかりと一つの間違いもなく自分の心に感じているのを感じた。今死のうとする眼と眼が、かっちりと火花を散らして結び合った。

「死ぬもんか! 馬鹿!」

どうして、ここで死ななければならないのか? どうして死から逃れるか? そんなことが問題ではなかった。ただ反抗である。彼女の悪霊のようなもの凄い相貌から、彼の魂へと、裸形(はだか)で踊り込む生の、飢渇のような欲求である。彼女を馳り立てるが故に、彼女も馳り立てずには置かない本能の爆発である。死んで堪るもんか、死ぬもんか、何だ! 馬鹿、畜生! 悪魔!

Wはいきなり拳を振って弾機(ばね)のように空中へ飛び上った。と同時に、叩きつけるように、地面へ落ちて、知覚を失ったマージーの体に、喰いつくように掴みかかると、決然と、あたかも宣告を下すように、

“No! sir”

と叫んだ。

この瞬間、彼の心を満したものは、決して、愛する妻を独り死なせるに堪えないという単独な情でもなければ、偕(とも)に死ぬべきであるという倫理的な判断でもない。