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びしょうじょ
美少女
「月刊文章」1939(昭和14)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,623 字 · 11 页
「あたし、もう少し。」家内は、ねばるつもりである。
「そうか。さきに帰るからね。」脱衣場で、そそくさ着物を着ていたら、湯槽のほうでは、なごやかな世間話がはじまった。やはり私が、気取って口を引きしめて、きょろきょろしていると異様のもので、老人たちにも、多少気づまりの思いを懐かせていたらしく、私がいなくなると、みんなその窮屈から解放されて、ほっとした様子で、会話がなだらかに進行している。家内まで、その仲間にはいってアセモの講釈などをはじめた。私は、どうも駄目である。仲間になれない。どうせおれは異様なんだ、とひとりでひがんで、帰りしなに、またちらと少女を見た。やっぱり、ふたりの黒い老人のからだに、守られて、たからもののように美事に光って、じっとしている。
あの少女は、よかった。いいものを見た、とこっそり胸の秘密の箱の中に隠して置いた。
七月、暑熱は極点に達した。畳が、かっかっと熱いので、寝ても坐っても居られない。よっぽど、山の温泉にでも避難しようかと思ったが、八月には私たち東京近郊に移転する筈になっているし、そのために少しお金を残して置かなければならないのだから、温泉などへ行く余分のお金が、どうしても都合つかないのである。