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よしつねのむすめ

義経の女

山本 周五郎

「少女之友」実業之日本社、1943(昭和18)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,735 字 · 8 页

青空文庫

となってしまいます」

妻への情に負けて、多くの人を傷つけ、世を騒がし、ひいては家を廃絶するような、みれんなことはして呉れぬよう、自分ひとりの命はもういずれとも覚悟をきめているから、千珠は心をこめてそうねがった。有綱には妻の心がよくわかった、その言葉にも誤りはない、今はなにごとをおいても天下を統一し、世を泰平にしなければならぬときである、そして妻はおおしくもおのれの覚悟をきめているのだ、

――だが、そうだからといって、みすみす妻ひとりを死なせにやれるだろうか。

有綱は苦しくかなしく、胸いっぱいにそう叫びたかった、おそらくその気持がわかったのであろう、千珠は涼しげに微笑さえうかべながら云った、

「千珠は命をめされるかも知れません、けれどもそれは、世のために大きく生きることだとおぼしめして下さいませ」

有綱は眼にいっぱい涙をため、やさしく妻を見まもりながらうなずいていた。それから数日して、或晴れた日の朝、千珠は迎えの輿に乗って鎌倉へと去った。

附記 千珠という名は仮のものである、義経の女というだけで名が伝わっていないため、筆者がかりにそう呼んだにすぎない。