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はごろもものがたり
羽衣物語
小川 未明
「コクミン一年生」1946(昭和21)年2、3月、「コクミン二年生」1946(昭和21)年4月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 6,149 字 · 12 页
見れば、もう天女の姿は、空へと浮かんでいました。若者が、「あれよ。」というまに、天女の長い袂はひるがえって、若者のかしらの上へたれさがり、そのはしが、手でとらえられそうなところまでくると、ふたたび、まき上がる雲のように、高くはなれて、音楽も急調子にはずみ、それといっしょに、しばらく、はげしく舞いくるったのであるが、いつしか、しだいに高く高く、そのまま姿は遠く小さくなり、ついに、かすみの奥深く消え去ってしまったのであります。
いつのまにか、美しい音楽の音もやんで、ただ、そよそよと吹く朝風のうちに、音楽の音が、いつまでもただよっていたのでありました。
浜辺の砂の上に、じっとしてすわっていた若者は、やっと夢からさめたように立ち上がり、方々を見まわしましたけれど、もうどこにも、天女の姿もなければ、羽衣のかげもありませんでした。
そして、広々とした海原と、青い松林と、いつにかわらぬ富士山があるばかりでした。若者は、その後、長い一生を正しく、楽しく送ることができました。
彼は、仕事につかれたときなど、いつも大空を仰いで、天女を思い出しました。すると、ふしぎや、天女は雲の上から、星のような目で下界を見つめて、なぐさめ、はげましてくれたのであります。