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アルトハイデルベルヒ
老ハイデルベルヒ
「婦人画報」1940(昭和15)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,879 字 · 18 页
大勢で佐吉さんの小さい酒店に御厄介になっていいものかどうか、汽車の進むにつれて私の不安は増大し、そのうちに日も暮れて、三島駅近くなる頃には、あまりの心細さに全身こまかにふるえ始め、幾度となく涙ぐみました。私は自身のこの不安を、友人に知らせたくなかったので、懸命に佐吉さんの人柄の良さを語り、三島に着いたらしめたものだ、三島に着いたらしめたものだと、自分でもイヤになる程、その間の抜けた無意味な言葉を幾度も幾度も繰返して言うのでした。あらかじめ佐吉さんに電報を打って置いたのですが、はたして三島の駅に迎えに来てくれて居るかどうか、若し迎えに来て居てくれなかったら、私は此の三人の友人を抱えて、一体どうしたらいいでしょう。私の面目は、まるつぶれになるのではないでしょうか。三島駅に降りて改札口を出ると、構内はがらんとして誰も居りませぬ。ああ、やはり駄目だ。私は泣きべそかきました。駅は田畑の真中に在って、三島の町の灯さえ見えず、どちらを見廻しても真暗闇、稲田を撫でる風の音がさやさや聞え、蛙の声も胸にしみて、私は全く途方にくれました。佐吉さんでも居なければ、私にはどうにも始末がつかなかったのです。