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ろうふうふ

老夫婦

黒島 伝治

1925(大正14)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,957 字 · 27 页

青空文庫

「ほいたって置いといたら、また何ぞ役に立たあの。」

「……うらあもう東京イ行たらじゝむさい手織縞やこし着んぞ。」為吉は美しいさっぱりした東京の生活を想像していた。

「そんなにお前はなやすげに云うけんど、どれ一ツじゃって皆な銭出して買うたもんじゃ。」

じいさんはそんなことを云うおしかにかまわず、篩いや、中古の鍬まで世話になった隣近所や、親戚にやってしまった。

老いた家無し猫は、開け放った戸棚に這入って乾し鰯を食っていた。

「お、おどれがうま/\と腹をおこしていやがる。」ばあさんは、それを見つけても以前のようにがみ/\追い払おうともしなかった。

ラクダの外套を引っかけて、ひとかどの紳士らしくなった清三に連れられて両人が東京駅に着いたのは二月の末のある晩だった。御殿場あたりから降り出した雪は一層ひどくなっていた。清三は駅前で自動車を雇った。為吉とおしかは、生れて初めての自動車に揺られながら、清三と並んで腰かけている嫁の顔をぬすみ見た。嫁は田舎の郵便局に出ていた女事務員に一寸似ているように思われた。その事務員は道具だての大きい派手な美しい顔の女だったが、常に甘えたようなものの言い方をしていた。