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ろうふうふ

老夫婦

黒島 伝治

1925(大正14)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,957 字 · 27 页

青空文庫

「ほいたって、ほかにましな着物いうて有りゃせんがの、……うらのを笑いよるんじゃせに、お前のをじゃって笑いよるわいの。」

「うらのはそれでも買うたんじゃぜ。」じいさんは自分の着物を省みた。それは十五年ばかり前に、村の呉服屋で買った、その当時は相当にいゝ袷柄だった。しかし、今ではひなびて古くさいものになっていた。ばあさんの手織縞とそう違わないものだった。

「もっとましなやつはないんか?」

「有るもんか、もう十年この方、着物をこしらえたことはないんじゃもの!」ばあさんは行李を開けて見た。

絹物とてはモリムラと秩父が二三枚あるきりだった。それもひなびた古い柄だった。その外には、つぎのあたった木綿縞や紅木綿の襦袢や、パッチが入っていた。そういうものを着られるだろうと持って来たのだが、嫁に見られると笑われそうな気がして、行李の底深く押しこんでしまった。

ばあさんは、屋内の掃除から炊事を殆ど一人でやった。園子は朝起ると、食事前に鏡台の前に坐って、白粉をべったり顔にぬった。そして清三の朝飯の給仕をすますと、二階の部屋に引っこもって、のらくら雑誌を見たり、何か書いたりした。