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ろうふうふ

老夫婦

黒島 伝治

1925(大正14)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,957 字 · 27 页

青空文庫

「これで菜物がよう出来るぞ!」

「御精が出ますねェ。」園子は二階から下りて来て愛嬌を云った。

「へえェ。」じいさんは田舎の旦那に云うような調子だった。

「何かお植えになりますの?」

「へえェ。こんな土を遊ばすは勿体ないせに。」

「まあ、御精が出ますねえ。」そう云って、園子はそっと香水をにじませた手巾を鼻さきにあて、再び二階へ上った。きっちり障子を閉める音がした。

「お前はむさんこに肥を振りかけるせに、あれは嫌うとるようじゃないかいの。」ばあさんは囁いた。

「そうけえ。」

「また、何ぞ笑われたやえいんじゃ。」

「ふむ。」とじいさんは眼をしばたいた。

「臭いな、こんじゃ仕様がない。」清三は会社から帰ると云った。「菜物なんか作らずに草花でも植えりゃえい。」

「臭いんは一日二日辛抱すりゃすぐ無くなってしまう。」

「そりゃそうだろうけど、菜物なんかこの前に植えちゃお客にも見えるし、体裁が悪い。」

「そうけえ。」じいさんは解しかねるようだった。

「きれいな草花を植えりゃえい。」

「草花をかいや。」じいさんは一向気乗りがしなかった。

「草花を植えたって、つまりは土を遊ばすようなもんじゃ。」

彼は腰を折られて土いじりもしなくなった。