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せいにょにんぞう
聖女人像
豊島 与志雄
「群像」1947(昭和22)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,549 字 · 28 页
」
「まったく、あの婆やさんは感心ですね。無口で、忠実で、よく働いて……。」
そんな調子だから、私は西岡夫人と話すのは嫌ではない。結婚の話も、さらりとしてるから苦にはならない。
然し、結婚という言葉は、抽象的なものではない。私の脳裡には、長火鉢の前に妻たるものが大きな臀を据えてる情景が、はっきり映ってくる。それが私の孤独圏を圧迫し縮小させるのだ。
久子は私のところに来ると、長火鉢の前にも平気で坐る。そして何故か、眉根に深い縦皺を寄せて、一度は必ず火鉢の中を覗き込む。それだけで、火箸とか灰ならしとかを手に取ることはない。もっとも、夏のこととて火は入れてないのだ。――或る時、彼女はやはり火鉢の中を覗きこんだが、ふいに、くすりと笑った。それから私の方を、黒い瞳でじっと見た。
「先生は、夫婦喧嘩なんか決してなさらないかたね。」
私は微笑したものだ。大事な事柄らしい話には微笑することにきめている。
「夫婦喧嘩だってするかも知れないよ。妻がないからしないだけで……。」
「いいえ、なさらないわ。女を軽蔑していらっしゃるから。」
「尊敬してるんだよ。」
そんなことを彼女はもう信じはしない。