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せいにょにんぞう

聖女人像

豊島 与志雄

「群像」1947(昭和22)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,549 字 · 28 页

青空文庫

私が打ち拉がれた気持ちに沈んでいると、久子は突然立ち上った。そして縁側へ、つかつかと出て行き、柱に片手をかけて、庭の方を見やった。――キキキというような甲高い笑い声がして、少年が彼方へ立ち去ってゆく。西岡とは別な家庭の保倉の息子だ。

保倉の息子も、私の孤独圏を乱すものの一つだ。罹災して危く死にかかるところを、ふしぎに助かったのだとか。片方の頬から肩へかけて火傷の痕がある。――彼が狂人だかどうだか私は知らない。十五六歳の普通の体格だが、へんに首が短く猫背で、頭は後頭部が扁平で大きい。裾短かな単衣を着て、庭の中をいつもうろついている。鍵の手になった建物をおぶってる恰好の広い庭で、植込も多く、真中が竹垣で仕切られている。そこを彼は、猫背で鼻先をつきだしてる様子で、用もなくぶらついている。出逢っても、顔を挙げて正視することなく、ちらと一瞥するだけで眼を外らしてしまう。その一瞥が、相手の秘密までも見通してしまうような視線だ。

彼はしばしば、私の室の縁側近くまでも忍び寄って来て、室の中をじろりと眺め、縁側に沿ってぶらついては、また室の中をじろりと眺める。私か婆やかが、そこへ、彼の眼の前に、ふいに出て行くと、彼はキキキと変な笑い声を立てて、彼方へ立ち去ってゆく。