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せいにょにんぞう

聖女人像

豊島 与志雄

「群像」1947(昭和22)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,549 字 · 28 页

青空文庫

――清子は、この保倉の息子を、婆やのように無視するのではなく、やさしくそして平然と眺めることだろう。存在する凡てのものを、ありのままの姿でいたわり眺める、そういう彼女なのだ。

久子はいつも、保倉の息子の気配を感ずると、挑戦するように飛び出してゆく。そして彼が逃げてゆくと、それについては何も言わずに、他のことを言う。

「あら、百日紅がきれいに咲いてるわ。紅と白と……。少し頂けないかしら。清田のおばさまのお墓に持っていきたいわ。」

私は戸惑いさせられるのだ。夫婦喧嘩だの保倉の息子だのと、清田のおばさまとは、何と縁遠いことか。――清田のおばさまは、彼女の気転で思いつかれるのか、それとも常に彼女の心の中にあるのか、私は知らない。

然し、庭の百日紅はまったく綺麗だ、上方が折れ朽ちてる桜の古木の横手、山茶花や木斛や木犀や檜葉などの茂みの中に、鮮紅色と白色との花が群がり咲いている。緑葉の茂みの中に仄見えてるから殊によい。それをじっと見ていると、花の憂愁とも言えるものが心に通ってくる。――花の憂愁、いや、私の心の孤愁なのであろう。

私は酔うと、ひどく酔うと、頭脳が硬ばってくるのを感ずることがある。