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せいにょにんぞう

聖女人像

豊島 与志雄

「群像」1947(昭和22)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,549 字 · 28 页

青空文庫

私は起き上って、枕を拾いあげ、袖で拭き清め、それを頭にあてがって寝そべった。そして叫んだ。

「もう帰ってくれ。君たち帰ってくれ。僕は一人でいたいんだ。この大事な箱枕をして、彼女のことを考えていたいんだ。一人きりでいたいんだ。何をぐずぐずしてるんだ。帰れよ。僕はもう一切口を利かないぞ。黙って一人でいたいんだ。」

私の眼から涙が流れてくる。私は横向きに枕を抱くようにして、両袖で顔を蔽う。――尾形が、それから久子が、私に何か言ったり、互に囁き合ったりしてるようだ。私は何物にも耳をかさず、何物も見ないのだ。

夢のように、然し明瞭に、台風の中心みたいなものが現われる。そこは真空だ。私はその中に身を置く。底知れぬ寂寥が私の上に蔽い被さってくる。泣ききれぬほどの嬉しい哀愁だ。そして真空なのだ。真空は満たされねばならない。それを満たすために、清子の姿が立ち現われる。真空の中に、それは自然と出現する。――私は眼を開く。そこには誰もいない。尾形も久子も帰っていったらしい。婆やもいない。ただ私一人だ。もう清子もいない。清子は果して実在の人間だろうか。そうだ、私にとっては架空のものではない。