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せいにょにんぞう

聖女人像

豊島 与志雄

「群像」1947(昭和22)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,549 字 · 28 页

青空文庫

婆やが出してくれるものなら、私はたいてい食べている。そして婆やは、私が丁度食べるぐらいのものを出してくれる。飯の分量については、ウイスキーで充分に補いはつく。

私は微笑しながら、煙草をふかした。

「君が台所をしてくれたら、面白いだろうなあ。食道楽をして、そのために破産する……現代離れがしてるよ。」

「いいえ、現代的というのは、ふだんと病気の時との……。」

言いかけて彼女はやめた。私があまり微笑しすぎてるのに気付いたのだ。――私の微笑のなかには、彼女に対する蔑視とまではゆかないが、少くとも軽視が含まれているのを、彼女は感づいている。微笑されるよりは寧ろ、怒ったり叫んだりして貰いたいのであろう。

「先生は、いつもはぐらかしてばかりいらっしゃるのね。いいわ、あたしもどうでもいいの。御病気がひどくでもなったら、もう側を離れやしないから……。」

彼女は突然、捨鉢にしんみりとなって、涙さえ浮べてるらしい。そうなると、眼鏡だけがへんに目立ってくる。眼鏡は、殊に女の眼鏡は、全くへんなものだ。相手に涙を見せたい時には、せめて眼鏡を外すべきだろう。キスする時にだって眼鏡を外すのが女のたしなみではないか。