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せいにょにんぞう
聖女人像
豊島 与志雄
「群像」1947(昭和22)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,549 字 · 28 页
私は初め、それについて異様な印象を受けた。眼鏡をかけたまま愛人とキスする久子、研究所の助手として時代思潮の先端にも触れてる筈の久子、それから、清田のおばさまと愛し合ってる久子、それらがなにか渾然としていないのだ。然し、洋装の久子と和服姿の久子とは、やはり同一人なのだ。彼女はいつも、濃い肌色の白粉をつけ、濃いめに口紅をつけている。私は最初、彼女の小麦色の頬と黒い瞳とに向って、口紅をぬったその唇にキスした。――固より、大抵の場合の通り、偶然の機縁もあった。
夕方、丁度彼女と二人きりで、研究所の窓から空を見ていた。五十歳近い私と三十歳過ぎの彼女と、そういう男女でも、青年男女のように、一緒に窓から外を眺めることもあるものだ。その時、二羽の白鷺が都会の上空を飛んで行った。西空に雲がかけていて斜陽はないが、上空は明るく、白鷺の大きな翼の柔かい白色がへんに淋しく見える。その二羽が少しく斜めに打ち揃って、僅かな間隔を常に乱さず、真直に飛んで行った。その姿が見えなくなってから、ちょっと間を置いて、私たちはキスした。――もしあの二羽の白鷺が飛ばなかったならば、或はそれを眺めなかったならば、私たちは、永久にキスしなかったかも知れない。