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ききがきしょう
聞書抄
谷崎 潤一郎
谷崎潤一郎『聞書抄』。同一底本的分册已合并为一书。收入:聞書抄、覚海上人天狗になる事、紀伊国狐憑漆掻語、三人法師。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 108,821 字 · 210 页
ものが手に入りました、小袖どころではありませんと云って、茶碗に湯をうめてその髪に振りそゝぎ、竿にかけて乾したりして、踊り跳ねてうれしがるのでした。私はその女の有様をつく/″\と見るにつけ、あゝ、浅ましい、前世に佛法の結縁があればこそ人とも生れたのだろうが、たま/\人間を受けた時に佛の道を修行して善人とまではならなくとも、せめて世の中の情をでも知っていることか、こんな大悪人になって、夜晝思うことは人を殺し物を盗むたくみより外にはなく、ついには因果が廻って来て無間地獄へ堕ちるのは分っているのに、悪業を作っては露の命をつなぎ、夢を夢とも知らないと云うのは我が身ながらあいそが盡きる。そればかりでなく、妻なる女の心の中の無慈悲なことはどうであろう、こう云う女と枕を並べて契っていたかと思えば返す/″\も口惜しい、どれほど恐ろしい女の料簡かと気がつきましたら、あゝ、飛んだことをしてしまった、何しにあの上※(「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1-91-26)を殺したのか、お痛わしいことをしたものだと、消えも入りたい心地でしたが、いや/\、たゞ歎いている