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ききがきしょう
聞書抄
谷崎 潤一郎
谷崎潤一郎『聞書抄』。同一底本的分册已合并为一书。收入:聞書抄、覚海上人天狗になる事、紀伊国狐憑漆掻語、三人法師。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 108,821 字 · 210 页
だが、感心なことに、大津の陣屋へ引いて行って徳川殿が直き/\の調べをした時にも、「その方は主人三成のありかを存ぜぬことはあるまいが」と云われると、
「左様でござります、よく存じておりますが、それを申し上げましては侍の道が立ちませぬ。たといどのような拷問を受け、骨をひしがれましょうとも、決して白状いたしませぬ」
と、きっぱり撥ねつけたと云うのである。
信世はしかし、ほんとうは三成のありかを知っているのではなかった。戦場で主人の行くえを見失ったので、上方の方へ逃げたのではないかと思い、跡を追いながらつい石山まで来てしまったのであった。徳川殿にもそれが分ったものだから、
「いや、此の男は知ってはいないぞ。だがあっぱれな挨拶だ。殺すのは惜しい奴であるから助けてやれ」
と仰っしゃって、即座にお赦しが出たのであったが、信世はそれを喜ぶでもなく、主に離れて生きていても何の甲斐があろう、此の上耻を重ねるのはいやだと云って、腹を切った。その潔い最期の有様が知れ渡るに従い、見上げた武士よ、治部少輔にも良い家来がいたものよと、町の人々は又そのことを噂し合っているのであった。
挿絵