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おに
聴雨・蛍 織田作之助短篇集
織田 作之助
織田作之助『聴雨・蛍 織田作之助短篇集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鬼、郷愁、勝負師。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,483 字 · 41 页
坂田の将棋を見てくれという戦前の豪語も棋界をあっと驚かせた問題の九四歩突きも、脆い負け方をしてみれば、結局は子供だましになってしまった。坂田の棋士としての運命もこの時尽きてしまったかと思われた。私は坂田の胸中を想って暗然とした。同時に私はひそかにわが師とすがった坂田の自信がこんなに脆いものであったかと、だまされた想いにうろたえた。まるでもぬけの殻を掴まされたような気がし、私の青春もその対局の観戦記事が連載されていた一月限りのものであったかと、がっかりした。
ところが、南禅寺でのその対局をすませていったん大阪へ引きあげた坂田は、それから一月余りのち、再び京都へ出て来て、昭和の大棋戦と喧伝された対木村、花田の二局のうち、残る一局の対花田戦の対局を天龍寺の大書院で開始した。私は坂田はもう出て来まいと思っていた。対木村戦であれほど近代棋戦の威力を見せつけられて、施す術もないくらい完敗して、すっかり自信をなくしてしまっている筈ゆえ、更に近代将棋の産みの親である花田に挑戦するような愚に出まいと思っていたのである。ところが、無暴にも坂田は出て来た。その自信はすっかり失われていたわけではなかったのである。