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にくたい
肉体
豊島 与志雄
「文芸」1935(昭和10)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,219 字 · 26 页
窓からすかしてみると、深い霧の夜で、空気には絹針のような秋の冷えが感ぜられます。もう夜明け近いのでしょう。私はトキエを少し眠らせようとしましたが、彼女はうなずいたきりで、別に眠たそうな様子もなく、静に坐りつづけています。私はうとうとしたり、はっと眼をさましたり、何かに驚いて飛び上る心地になったりしました。子供の唇にはもう血の気が見えませんでした。
翌朝、小野君が来てくれた時には、私はただ奇蹟を待つだけのような気持になっていました。
その夕方、子供は静に……消えるように、死んでいきました。ミヨ子という名ばかりで、何かを……恐らく混沌としたものを、見たり聞いたりしただけで、意味のある言葉は一言も云わずに消えてしまったのです……。そしてその夜、小野君が遠慮して帰っていってから、トキエは、子供の真赤な布団の中にすべりこんで、その死体をだいて横になりました。私は涙ぐみながら、怒って、叱ってやりました。そんなことをするものではない、死体を抱きかかえるくらいなら、病気にならないように、用心してやるべきだったと……。
「だって、お医者様も、仕方がないって云っていらしたわ。