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にくたい

肉体

豊島 与志雄

「文芸」1935(昭和10)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,219 字 · 26 页

青空文庫

二十一二の、丁度年頃で、背は低いが――私だってこの通り背は低い方ですからね――何の屈託もなさそうな、朗かな、よく笑う女で、それでいて何だかおっとりとしています。額のせまい、丸顔のたちで、美しくはありませんが、歯がきれいで、そして何よりも、眼が……黒目のうわずった、見つめると近視か乱視めいた愛嬌をつくって、変に妖しい色をおびてきます……。人間、うっかりしていますと、妙なところに心を惹かれることがあるものですよ。

それが、忘れかねる……というほどじゃあありませんでしたが、つい、その、足が向きましてね、三度四度と呼んでるうちに、気持も親しくなるし、ただ逢ってるだけじゃあつまらなくなり、それに何よりも、これ以上親しくなったらもうあがきがとれなくなる、今が丁度潮時だと、そんな気持が一番多く働いて、ある時、酔ったまぎれに、そこの仲居にそれとなく探りを入れてみると、大丈夫ですよ、とは云うものの、本人の気も引いてみたくなりましてね……。

「ああ酔っちゃった、今晩泊っていってもいいかしら……。」とまるで他人事のようでした。

「ええ、いいわ。」

至極簡単に、あっけなく片附けられてしまったものです。