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にくたい

肉体

豊島 与志雄

「文芸」1935(昭和10)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,219 字 · 26 页

青空文庫

それでも、別段驚きもせず、心配もせず、当然のことだとしてるようでした。そしてそのことがはっきりしてくると、やはり女ですね。いつどこで覚えたのか、毛糸の球なんか膝のあたりにころがして、気長に、赤ん坊の頭巾や胴着などを編み初めました。無事に月がたって、病院をひどくきらったのがただ一つの自己主張で、そしてその二階で弱々しい女の児をうみました。まるで、妊娠してお産をするために家を一軒もったようなものです。

その間、私はいろいろ気をもみました。女の腹の中に生育していくものに対する不安な恐れ、それは男が誰でも感ずる事柄で、茲に改めて云うには及びますまい。それから次に、生れてくる子供の戸籍のことでひどく頭をなやましました。母親は内々私の素行を感づいたかも知れませんが、それかって、年とってる両親に今更子供のことも頼みかねますし、私としてはトキエと結婚する気なんか少しもなかったのです。考えあぐんでは、彼女の眼にまでつくようになったらしいんです……。尋ねられて、私はそのことを打明けました。

「いいわ、あたしがいいようにしとくから……。」

彼女は事もなげに云って、微笑みました。