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にくたい
肉体
豊島 与志雄
「文芸」1935(昭和10)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,219 字 · 26 页
然し小野君は至って真面目で真剣です。どこに行っても、赤ん坊の寝顔のスケッチは、何か迷信か、それとも気持の上でか、嫌がられて許して貰えない。君のところは、どうせ隠し児だろうから、逆に厄払いという意味で、ひとつ自分に傑作を拵えさしてくれ……。そういってむりに頼むものですから、母親にきいてみよう、とまあ一時遁れをしましたが、後で、トキエに話してみますと……。
「ええ、いいわ。」
いつもの通り、簡単明瞭です。一体この女は……と思って、その顔を眺めますと、あの黒目のうわずった妖しい眼付で、何の屈託もなさそうに笑っています。そこで私も、今迄気にやんでいたのがばかばかしくなって、小野君に傑作でも書いて貰った方が却ってこの児のためにいいかも知れない……などと考えるようになりました。
私が小野君を連れてゆくと、トキエは、別に興味も示さず、また気後れも見せず、以前お座敷での時と同じように、平然と迎えました。そして二階の、日差しの悪い室で、すやすや眠ってる赤ん坊の顔を、小野君は大きな絵具箱を開いて、描き初めました……。
一体、絵が書かれてるところを見ると、私はいつも不思議な気がするんですが……物の形が次第にととのってくるというのではなく、しっかりした腕前の人であればあるほど、ぽつりぽつりとばらまかれた色や線が、ひとりでに生き上っ