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はだいろのつき

肌色の月

久生 十蘭

「婦人公論」中央公論社、1957(昭和32)年4~8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 50,706 字 · 101 页

青空文庫

陽があがると靄がはれ、すがすがしい朝になった。湖のむこうの山々の頂が、朝日を受けて火を噴いているように見えた。

久美子はひとりで朝食をすませ、所在なく広間で大池を待っていたが、八時近くになっても起きて来ない。

「どうしたんだろう」

気あたりがする。中二階へあがって行って、ドアをノックした。

「大池さん、まだ、おやすみになっていらっしゃるの」

返事がない。

鍵が鍵穴にさしこんだままになっている。

そっとドアをあけて、部屋をのぞいてみると、寝ているはずの大池の姿はなかった。

「なんだ、そうだったのか」

なかったはずだ。ボートを漕ぎだしたのは大池だったらしい。

そういえば、ボートの中に魚籠のようなものがあった。大池がこのボートで釣りに行くのだろうと思わなかったのが、どうかしている。

それにしても、大池はまだ釣りに耽っているのだろうか。久美子は窓をあけて湖をながめまわした。

朝日が湖面に映って白光のようなハレーションを起している。久美子は眼を細めて、陽の光にきらめく湖面を見まわしているうちに、やっとのことでボートの所在をつかまえた。

「ボートが流れている」

久美子が漕ぎだそうと思っていた湖心のあたりに、乗り手のいない空のボートが、風につれて舳の向きをかえながら、漫然と漂っているのが見えた。