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はだいろのつき

肌色の月

久生 十蘭

「婦人公論」中央公論社、1957(昭和32)年4~8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 50,706 字 · 101 页

青空文庫

久美子は生存というものを廃棄するために、というよりは、自分という存在を上手にこの世から消すために、その方法をいろいろと研究した。想像力の及ぶかぎり、可能なあらゆる場合を想定し、プロットを立て、それに肉付した。これならばというプランを一月以上も頭の中にためておき、いくどもひっくりかえしてみて、完全だという確信ができたので、さっそく実行することにした。

二年ほど前の秋、おなじ声優グループの仲数枝が、フラリと久美子のアパートにあらわれた。久美子は用があって、階下の管理人の部屋で立話をしていると、裏の竹藪へドサリとなにか落ちこんだような音がした。それをなんだとも思わず、十分ほどして部屋に帰ると、仲数枝が久美子の行李の細引を首に巻きつけてその端を出窓の手摺子に結びつけ、一気に窓から裏の竹藪へ飛んで死んでいた。

「やったねえ。若い娘にしては心得たもんだ……頸骨をへし折るように作業するのは、縊死のもっとも完全な方法なんだな。ほとんど苦痛はなかったろうと思う」

老練らしい検視官が鑑識課の若い現場係に訓話めいたことをいっていた。

仲数枝の最後の演技はすごい当りだったが、人生の舞台にはエンディングという都合のいい幕切れはないので、終末はひどくごたごたした。