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はだいろのつき

肌色の月

久生 十蘭

「婦人公論」中央公論社、1957(昭和32)年4~8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 50,706 字 · 101 页

青空文庫

「宇野さん、それは邪推ですよ。あなたの側に個人的な理由があるならともかく、父のためなら、たぶん、あなたはもう自殺なんかなさらないでしょう。いちど死神が離れると、とっつかまえるのはたいへんだといいますから……そういう懸念があるなら、いくら私でも、こんなものをお渡ししませんや」

たった一言、心の中の秘密をうちあけることができるなら、浅薄な論理をはねかえしてやることができるのだが……徹底的にうち負かされた感じで、抵抗する気になれないほど、久美子は弱ってしまった。

「隆……隆……」

甲走った声で大池の細君が広間から二階へ叫びあげた。

「あなた、そこでなにをしているんです」

隆が部屋の中から叫びかえした。

「まあ待ってください……いま話してるところだから」

「押問答をするほどのことはない。簡単なことでしょう。そこから出てもらえばいいのよ」

「ええ、いますぐ……」

隆は当惑したように微笑してみせた。

「母も私も、父とあなたの……なんというんですか、身体を括りあったみじめな死体が揚ってくるのかと、ここへ着くまで、そのことばかり心配していたのでしたが……」

雨雲がロッジの棟の近くまで舞いさがってきて、隆のいるあたりが急に暗くなった。