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はだいろのつき

肌色の月

久生 十蘭

「婦人公論」中央公論社、1957(昭和32)年4~8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 50,706 字 · 101 页

青空文庫

さほど遠くない将来に、いずれ自分もすごい苦悶のなかで息をひきとることになるのだろうということを、久美子はそのころからはっきりと自覚していたので、もし、すこしでもそういう予徴が見えだしたら、肉体の機能のうえに残酷な死の影がさしかけない前に、安らかな方法ですばやく自殺してやろうと覚悟していた。それが願望になって、心の深いところに凝りついていた。

三月三日の夜、雛祭にちなんだ特別番組があった。それが終ってから、仲間の一人とスタジオの屋上へ煙草を喫いに行った。

晴れているくせに、どこかはっきりしないうるんだような春の空に三日月が出ていた。あまり妙な色をしているので、久美子は思わず叫んだ。

「なんなの、あの月の色は」

「月がどうしたのよ」

「妙な色をしているじゃないの。黄に樺色をまぜたような……粉白粉なら肌色の三番ってとこね」

「肌色でなんかないわ」

「黄土色っていうのかな」

仲間は煙草の煙をふきだしながら、まじまじと久美子の顔をみつめた。

「いつもの月の色よ、灰真珠色……あなたの眼、どうかしているんじゃない」

月だけではなかった。塔屋の壁も扉もアンテナの鉄塔も、もやもやした黄色い光波のようなものに包まれていた。