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はだいろのつき

肌色の月

久生 十蘭

「婦人公論」中央公論社、1957(昭和32)年4~8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 50,706 字 · 101 页

青空文庫

う」

「大池はたしかに自殺したらしい……この先、まだ逃げまわるつもりなら、伊豆の奥の、こんな袋の底のようなところへ入ってくるわけはないから……われわれの見解はそうだが、大池が生きているという事実でもあるのかね」

そういうのが警察の常識なら、決定的な場で、追及の裏をかく手もあるわけだと、久美子は考えたが、それは言わずにおいた。

警察から伝達があったのだとみえて、夕方、キャンプ村の管理をしている石倉が機外船で迎いにきた。

「ご苦労さま」

久美子が乗りこむと、機外船はガソリンの臭気とエンジンの音をまきちらしながら、対岸の船着場のほうへ走りだした。

「結局、バンガローへ行くことになったわ」

「バンガローといっても、ぼくの三角兵舎みたいなもので……荒れていますから、お気持が悪いでしょうが、湖畔のいちばん綺麗なのを掃除しておきました」

「あてなしに、フラリと出てきたもんで、飯盒も食器も持っていないんだけど、食事、どうしたらいいのかしら」

「ご食事はバンガローへお運びします」

「それは、たいへんよ……あなた、錨繩を曳く仕事があるんでしょう。飯盒を貸してくだされば、じぶんでやります」