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はだいろのつき
肌色の月
久生 十蘭
「婦人公論」中央公論社、1957(昭和32)年4~8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 50,706 字 · 101 页
一人だけでいるところで死なれでもしたら、どんなことになるかわかったものではない。
「ともかく、長椅子に行きましょう」
大池を長椅子のところへ連れて行くと、上着を脱がせ、クッションを集めて座位のかたちで落着かせた。洗面器に井戸水を汲んできてせっせと胸を冷やしたが、こんなことでは助かりそうもなかった。
「応急薬といったようなものはないんですか、あるなら探して来るけど」
大池は食器棚を指さした。
「……ジギタミンと、赤酒を……」
食器棚の曳出しにはそれらしいものはなかったので、浴室へ行って、壁に嵌め込んだ鏡付のキャビネットの中を見た……「ジギタミン」というレッテルを粘った錠剤の瓶がガラスの棚の上に載っていた。日本薬局方の赤酒は、赤い封蝋をつけてウイスキーの瓶のとなりに並んでいた。
「安心なさい。ジギタミンも赤酒もあったわ」
コップの水を口もとに持っていくと、大池は飛びつくようにして錠剤を飲みこんだ。
三十分ほどすると、大池は眼に見えて落着いてきた。荒い息づかいがおさまり、脈のうちかたもいくらか正常になったが、寒いのかとみえて、鳥肌をたててふるえている。
燃えさしの松薪を集めて煖炉を燃しつけにかかると、大池は恐怖の色をうかべて呻いた。