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はだいろのつき

肌色の月

久生 十蘭

「婦人公論」中央公論社、1957(昭和32)年4~8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 50,706 字 · 101 页

青空文庫

「大池さん、十時間や十二時間、すぐ経ってしまってよ……一人でいるのが不安なら朝までおつきあいしますから、イライラするのはよしなさい……だいじょうぶ、死にはしないから」

「自分の身体のことは、私がよく知っている。とても明日の朝まで保ちそうもない。だめだという感じだけで参ってしまうんだ……頭のたしかなうちに、言っておきたいことがある。宇野さん、聞いてくれないかね」

聞きたいことなど、なにもない。だまっていてくれるほうが望みだったが、大池のあわれなようすを見ると、そうは言いかねた。

「聞いてあげてもいいわ。それで、あなたが気が休まるなら」

「私が何者だか、君はもう察しているだろう。二十日の朝、名古屋の私のところへ、君代が東京から長距離電話で、こんなことをいってきた。半年近く逃げまわって、忠平が疲れきっているから、すこし休ませてやりたい。忠平のところへ石倉をやって、この湖水で自殺するという遺書を書かせたが、形のないことではしょうがないから、伊豆へ行ってロッジで一と晩、泊ってくれれば、あとは石倉がいいようにこしらえるから、という話なんだ」

「石倉って、どういう関係のひとなんです?」