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はだいろのつき

肌色の月

久生 十蘭

「婦人公論」中央公論社、1957(昭和32)年4~8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 50,706 字 · 101 页

青空文庫

久美子は煖炉の前の揺椅子に掛け、浮きあがるような気持で石倉を待っていた

三日後、朝の十時ごろからはじまった取調べが、夕方の五時近くなってもまだ終らない。伊東署の調べ室で、加藤捜査一課と久美子が、永久につづくかと思われるような、はてしもない言葉のやりとりをくりかえしていた。

窓のない、一坪ばかりの板壁の部屋で、磨ガラスの扉で捜査主任の部屋につづいている。たえずひとの出入りするバタバタいう音や、ひっきりなしに鳴る電話の音が聞えて来る。

長い沈黙のあとで、加藤捜査一課が、ぼつりと言った。

「なにか言ったらどうだ」

久美子は冷淡にやりかえした。

「なにも言うことはないわ」

「こちらには聞きたいことがある」

「疲びれたから、これくらいにしておいてください」

「なにも言わないことにしたのか」

「なにも言いたくないの。言ってみたって無駄だから」

「無駄か無駄でないか、誰がきめるんだ」

「あの晩のことは、全部、話したわ。あたしに都合の悪いことでも、隠さずに言ったつもりだけど、てんで信用しないじゃありませんか。このうえ、精を枯らして、捜査の手助けをすることもないから」

「手助けか。