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かんぞうせんせい
肝臓先生
「文学界 第四巻第一号」1950(昭和25)年1月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,194 字 · 46 页
東京の友人や先輩から、先生に宛てた紹介状をもたせて患者を送ってくることがあった。それは、ほかの病気の患者であったが、しらべてみると、例外なく肝臓炎もあるのである。この事実は先生を困惑させ、思わず、こまった、こまった、と心に叫ばしめるのであった。
そこで先生は仕方なく、
「肝臓も悪いですね」
と何気なく言おうとしても、どうしても「も」にこだわって、妙に力がこもってしまうのだった。それからの先生は、患者を診るたびに「も」の一語と闘い、自責の苦痛と闘わねばならなかった。すべての患者が肝臓炎でもあること、この動かしがたい事実に、なぜ気おくれするのであろうか。先生はフガイなきことにも懊悩した。
その時に当って、先生に大きな勇気を与えてくれる出来事が起ったのである。
昭和十五年、十二月二十日であった。例年のこの日は、恩師の大先生の謝恩会が門下生によって催される日であった。先生のすむ伊東は、汽車も通らぬヘンピなところで、この地へ開業以来、十二年間も謝恩会には御無沙汰していたが、どうやら汽車も開通するようになったので、でかけたのである。
盛大な謝恩会だ。恩師の大先生をかこんで三百名の門下生があつまっている。