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かんぞうせんせい

肝臓先生

坂口 安吾

「文学界 第四巻第一号」1950(昭和25)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,194 字 · 46 页

青空文庫

どの医者だってそうする筈だし、かりにも国民健康保険の係員ともあろう者が、それを知らない筈はありえない。それだのに、右注射使用の理由を具体的にそれぞれ回答しろとは、ワケのわからないこと、おびただしい。

まるで先生の医学知識を疑っているのか、さもなければ、不正をはたらいていると考えている詰問状だ。

つまり、この係員は、町の人々が先生を肝臓医者とさげすむように、先生の患者がみんな肝臓病だからインチキだと思っているのである。先生はそこに気がついたから、さッそく返事を送った。

拝復 昭和十七年四月十五日附御照会の件拝読仕りました。葡萄糖注射が肝臓疾患治療に欠くべからざるものなることは医者の常識ですから、御照会の件は、小生申告の患者の殆ど全部が流行性肝臓炎なることに御不審なされての上のことかと拝察いたしますので、それについて御答えした方がよろしいかと存じます。

小生診察の流行性感冒患者に亜黄疸又は中等度の黄疸があって肝臓の肥大ならびに圧痛を伴うことに気付いてから四五年、急激にかような患者が増加いたしております。当地に於ては、赤城氏性肝臓炎とも、オーダンカゼとも流行性肝臓炎とも呼ばれております。