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のうめんのひみつ

能面の秘密

坂口 安吾

「小説新潮 第九巻第三号」1955(昭和30)年2月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,440 字 · 35 页

青空文庫

なことになりがちでいけなくなる一方であるらしい。使用人も居つかなくなり、中学をでて夜学へ通っている小僧が一人いるだけだった。事務所を訪ねてみると、帳簿のほかには探偵小説ばかりが並んでいる。ビッコのせいかブルジョアの息子のようなオットリしたところもない。

「ずいぶん探偵小説をお持ちですね」

「愛読書です」

「昨夜の十時半ごろですが、ある男が母堂を窓の外からゆすっていたというのですよ。母堂が答えて云われるにはもう一千万円もゆすったあげくまだゆするとはあつかましい。もう名誉もいらないのだからみんなに秘密を云いたてるがよい。ビタ一文もだしませんとね。すると窓の外の男がいまに後悔しますよと云って立ち去ったそうです」

「そんなことを母が云ったんですか」

「いいえ、偶然きいた人がいるのです」

「そうでしょうな。人が邸内で変死した当日にそんなことがあったと自分で云う人間がいたらおかしいです。またそんなことのあった直後に人を殺すのもおかしいでしょう。ましてゆすられてるのを人にきかれているのにね」

「探偵小説の常識というわけですか」

「まアそうです。母も探偵小説はかなり読んでる方ですよ」