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のうめんのひみつ

能面の秘密

坂口 安吾

「小説新潮 第九巻第三号」1955(昭和30)年2月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,440 字 · 35 页

青空文庫

この旅館へくる人でね。それじゃア小田原の河上さんでしょう。ナマリで分りますよ」

「あの人は跫音のない人だね。出て行く跫音がきこえたかい」

「戸がしまったから分りましたが、恐縮して忍び足で逃げたんですね。あの人らしくもない」九太夫はクツクツ笑いだした。そして辻に呼びかけて、

「ね、辻さん。私もこんなことだと思いましたよ。せんだって私の一人言を他人の声とカンちがいしたのを見た時からこの実験の結果だけは分っていたんです」

「あら辻さんですか。部屋を出なかったのね。道理で跫音がきこえないはずだ」

「なるほど面白い実験でしたね。しかし益※(二の字点、1-2-22)わけが分らなくなりました」

「それなんですよ。あの奥さんは能もやれば長唄もやる。声の変化は楽にだせる人です。男の作り声ぐらいは楽なんですね」

オツネは辻以上にびっくりして、しょげてしまった。「それじゃアあのとき私がきいたのは奥さんの作り声ですか」

「そうだと思うね。だからお前さんは戸のしまる音はきいても、戸のあく音はきかなかったと思うね。おんなにノロノロと壁づたいに長の廊下を道中してくれば戸のあく音はきこえるはずだが、つまり戸はたぶんお前さんが別館をでる前からあいてたのだ。