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のうのなかのれいじん
脳の中の麗人
海野 十三
「日の出」1939(昭和14)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,774 字 · 28 页
入院費や手術費とは別に、多額の金が、その信託会社から支払われたそうである。だから黒木博士も病院も、彼の面倒を十二分にみることができたのである。
黄風荘の彼の借りている部屋は、三間もある広々とした上等のところだった。
見覚えのある彼の持ち物や調度が、室内にきちんと並んでいた。
「ふーん、悪くない気持だて」
彼は悦に入って、頤のさきを指でひねりまわしながら、室内を見まわした。セザンヌが描いた南フランス風景の額がかかっている。南洋でとれためずらしい貝殻の置き物がある。本箱には、ぎっしりと小説本が並んでおり、机のうえには杉材でこしらえた大きな硯箱がある。すべて見覚えのある品物だった。
彼は、懐しげに、一つ一つの品物をとりあげては撫でてまわった。
そのうちに、彼の手は、机のひきだしにのびた。ひきだしを明けて、中の品物をかきまわしているうちに、彼は青い革で表を貼ったりっぱな手帖に注意をひかれた。
「おや、こんな手帖が入っている。見覚えのない品物だが……」
なぜ自分の所有ではない青い手帖が、ひきだしの中に入っているのか? 誰かが引越のとき間違えて、このひきだしの中へ入れたのであろうと思いながら、彼はその手帖をひらいてみた。