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のうのなかのれいじん
脳の中の麗人
海野 十三
「日の出」1939(昭和14)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,774 字 · 28 页
女は主人公が部屋の錠をあけたときに、声をかけた。そして無理やりに泊っていったという。これでみると、Yという女は、気の毒にも主人公から冷淡にあつかわれている。Yという女の姿が見えるようで、たいへんいじらしくなった。
それでいて、この日記の主人公なる者が、一体誰なんだか分らないのだった。
その主人公こそは、彼――宮川宇多郎なのであろうか。
「いや、断じて、自分ではない。自分には、そんな記憶がない」
記憶がないから、自分ではないと思ったものの、この手帖は自分の机のひきだしの中に入っていたことといい、その日記の筆蹟が、たしかに自分のものであることといい、じつに気持のわるいことに覚えた。一体、どうしたというのだろう。
彼は、さらにその手帖の頁をくって、先を読んだ。
「五月××日。Y、夕方暗くなって、かえってゆく。もうこれでお別れだという。もう諦めたともいう。どうかあやしいものだ。いつもその手をつかう。かえったあとで、座蒲団を片づけると、下から私の写真がでてきた。その写真は、ずたずたにひき裂いてあった。さっき私の写真を一枚くれと熱心に頼んだものだから、つい与えたのだが、Yのやつ、持ってゆかないで、こんなひどいことをしやがった」