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したのすさび

舌のすさび

吉川 英治

「あまから」1960(昭和35)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,492 字 · 7 页

青空文庫

なにしろ磨ぎこぼしの米粒の幾粒すらも流し元から逃がさぬように一ツ一ツ笊へ拾っていた母の指を覚えている。そんなだから、たとえば鮭のおかずといっても切身は買わず、一ト山いくらで滅法安い鮭のあらをよく買ったものである。ところがその中に交じっている荒巻の鎌(アゴ)とよぶところは鮭の全身のなかではいちばん美味い。極く尻尾の端のとこもまたほかの部分の肉よりもはるかにおいしい。ひそかに貧者へ与えられていた貧者の味にはそんな余徳があったのである。

いぜんにはよく天ぷら屋の鍋台の横では、揚ゲ玉というのを売っていた。これもただみたいに安かった。朝、小松菜の実か何かの味噌汁へそれを一トつまみずつ落すと大家内がみな天ぷらを食べたような気分になる。うどんにも入れ、ただとろりと煮とかして熱いごはんへかけたりもする。どうしてだが、この頃は売っているのを見かけない。銀座のハゲ天へ立ちよったとき、帰りがけにそれをねだったら『どうなさるんです?』と笑われた。

人がかえりみなくなった物で、ひそかにこちらでは悦に入っている物に鰹の中落ちというやつがある。あの血アイの肉のついている骨。これは季節どきでも魚屋へいうと、いくらでも届けてくれる。