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ほどう

舗道

宮本 百合子

「婦人之友」1932(昭和7)年1~4月号(著者検挙のため未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,745 字 · 70 页

青空文庫

「この頃は犬の鳴声の素敵に上手い奴もいるってネ」

そう云いながら、パン菓子へ手をのばし、一どきに三つ四つ掌へ握りとって食べている。――

最後にドアがあいて、

「今日は」

肩のガッチリした中尾が入って来た。いつも通り、ゆっくりした動作でステッキをビラの下っている壁の隅にたてかけ、ポケットから水色の薄い教科書を出しながら、

「――なかなか御馳走ですナ」

笑って教壇がわりの大机の前へ行った。

立ち上って机から菓子屑をはらっていた菅が、

「失礼ですが、アノー、ここにとっときましたから」

と、わざわざ菓子の包みを挙げて見せたので、みんな笑った。

今日は第六課だ。

「君の工場主はどんな人間か?」

「大ブルジョアだ。彼は赤い面をしている。然し赤い思想は大嫌いだ」

という文句が、クッキリ太い活字で教科書の中へ出て来たとき、ミサ子を入れて三十人ばかりの講習生は粗末な室の中で愉快そうにドッと笑い出し、窓の下を通っている江戸川行電車の響を一時消した。

六

「真直おかえりですか?」

「ええ」

エスペラントがすむとミサ子と坂田とは偶然並んで九段ビルを出た。まだ十時前で、散歩する人通りとレコードのジャズの響が歩道にあふれている。