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ほどう

舗道

宮本 百合子

「婦人之友」1932(昭和7)年1~4月号(著者検挙のため未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,745 字 · 70 页

青空文庫

ミサ子は何だかそこにそのまま立っていられない気持になって、洗面所へ行った。みどりが水道の栓をひねりっぱなしにして顔を洗っている。掌に掬った水で邪慳に自分の唇を洗って、ハンケチで拭いて、声に出して云った。

「チェッ! 畜生!」

ミサ子が入って行くと、直ぐ、

「よっぽど前に来た?」

と訊いた。

「……いないのかと思ったわ」

「ふむ」

みどりは、こわい、怒った眼つきのまま今は髪をときつけている。ミサ子には前後の事情が分るまいとしても分る。みどりは、凝っと鏡の面に目を据えて断髪を梳いていたが、急にミサ子の方を向いて、

「どう?」

と云った。

「私たちは、こういう目にも会うのよ」

そして、自嘲するように笑おうとしたがみどりの唇が震えて、見る見る目に涙が湧き出して来た。頬っぺたを涙の粒がころがり落ちた。それを荒々しく手の甲で拭いて、みどりは鼻の頭をコンパクトでたたき始めた。

わきに立って、その様子を見ているミサ子はみどりの気持が一々わかる。

「――出ちまいなさいよ!」

ミサ子は思わず親身な声を出して云った。

「出されちまうわ、どうせ。堂本の奴ったら……畜生! ひとを……旗日だってったら、証拠を見せろだって手なんぞ出しやがって……チェッ!」