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まいひめ
舞姫
「國民之友第六拾九號」民友社、1890(明治23)年1月3日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,190 字 · 33 页
今この処を過ぎんとするとき、とざしたる寺門の扉に倚りて、声を呑みつつ泣くひとりの少女あるを見たり。年は十六、七なるべし、被りし巾を洩れたる髪の色は、薄きこがね色にて、着たる衣は垢つき汚れたりとも見えず。わが足音に驚かされてかえりみたる面、余に詩人の筆なければこれを写すべくもあらず。この青く清らにて物問いたげに愁いを含める目の、半ば露を宿せる長き睫毛に掩われたるは、何故に一顧したるのみにて、用心深きわが心の底までは徹したるか。
彼は料らぬ深き歎きにあいて、前後を顧みるいとまなく、ここに立ちて泣くにや。わが臆病なる心は憐憫の情に打ち勝たれて、余は覚えず側に倚り、「何故に泣きたもうか。ところに繋累なき外人は、かえりて力を借し易きこともあらん」といいかけたるが、われながらわが大胆なるにあきれたり。
彼は驚きてわが黄なる面をうち守りしが、わが真率なる心や色にあらわれたりけん。「君は善き人なりと見ゆ。彼のごとく酷くはあらじ。またわが母のごとく」しばし涸れたる涙の泉はまた溢れて愛らしき頬を流れ落つ。
「われを救いたまえ、君。わが恥なき人とならんを。母はわが彼の言葉に従わねばとて、われを打ちき。