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ぶま
舞馬
牧 逸馬
「新青年」1927(昭和2)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,843 字 · 16 页
そこは老年に近い峰吉としては、お八重の腹の子に対する擽ったい悦びに混って、茂助の顔を見るたびに覚える真黒な動物的な親密――この小僧がお八重をおれと共有しているかも知れねえのだからなあ――からくる一種へんな感心の気もちを味わわなければならなかった。峰吉がとしよりだったから、こんなところを低徊していたのかも知れないし、一方から言えば年寄りなればこそ、そうして副小頭なればこそ、ここを一つぐっと押さえることが出来たのかも知れない。それは、これが植峰の峰吉にとってこの上ない悲壮な、英雄的な感激だったのでもわかろう。火のないところにけむりは立たぬ。町内で知らぬは亭主ばかりなり――なあに、おりゃあ知ってる。知ってて眼をねむってるんだ。まあ、待て待て、と洗湯の湯の表面に黒子の毛を浮かべて、そもそも何度峰吉が自分じしんに言いきかせたことか。思えば、苦しいこころで笑っている植峰の親方ではあった。
そんなこととは知らないから、茂助は依然として「やれこうのえんやらや」の茂助だった。ときどき三里ほどの夜の山道を歩いて、遊廓のある町へ行ったり、その町から帰って来たりする途中も、茂助はずうっとお湯屋の番台にすわっているおとめちゃんのことを思いつづけた。