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ばしょうについて
芭蕉について
宮本 百合子
「新女苑」1940(昭和15)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,634 字 · 14 页
そういう通俗の断論はこれまでに随分流布している。特に、この三四年は日本が日本を再発見する必要に立たされて、文化や芸術の面で日本の古典が再認識を試みられるようになって来た。そして、これまで余り古典にふれなかった文化層の人々がとりいそぎそういうものにとりついて行って、それらの芸術の逸品に籠っている高い気品、精魂、芳香に面をうたれて、今更に古典の美を痛感すると一緒に分別をも失って、それぞれの芸術のつくられた環境の意味と今日の私たちの現実との関係を見失った欽仰讚美の美文をつらねる流行をも生じた。私は俳諧の道にはよらず散文の道をとおって、この芸術の大先達に近づいて見たいと思う。後年、芭蕉が芸術の完成へ辿りついたまでのいきさつというものは、時代と人との相互的な姿を示して感興つきないものがある。誰でも知るとおり、芭蕉は生まれたときからこの名を持っていたのでない。松尾宗房と云い、伊賀国上野町の城代藤堂家の家臣で、少年から青年時代のはじまりはその城代の嫡子の近侍をしていた。既にその時代、俳諧は大流行していて若殿自身蝉吟という俳号をもって、談林派の俳人季吟の弟子であった。