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はなさかぬリラ

花咲かぬリラ

山本 周五郎

「新青年」公友社、1946(昭和21)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,378 字 · 36 页

青空文庫

来太は声を張って云った、「それでは食えないから泥棒をするというのと同じだ、非常に恥入ります、どうか勘弁してください」

云い終わって通路へ下りると、ちょうど客から客へリレーで送られた鞄が来た。彼はそれを頭上に高くあげながら、「ありがとう」と叫び、次の車室へ移ろうとした。するとその扉口にひしめき合っている人混みの中から、

「隊長ここです」と呼ぶ声がした。

見るとその車室の最後部の席から、尋ねる五人の者が立ち上がって笑顔を重ねるようにして手を振ってい、「よかったですね、隊長がどなってくれなかったら会えないところでした」

「しかしびんびんとよく響いたなあ」

「久しぶりの大音声で胸がすっとしたよ」

「こいつは拍手しました」彼らは来太が側へゆくとわれ勝ちにそう云った。燕の雛が親鳥を迎えるような悦びにあふれた感じである。

「みんなそろってるな、よしよし」来太は一人の明けてくれた席へむぞうさに掛けながら、五人の顔を順々に見まわした。

「……訪ねた先で時間を取ってあぶなく乗りおくれるところだった、しかしみんなよくこの列車へ乗ったな」

「それはもう、隊長が乗るとおっしゃれば必ずお乗りになると信じていましたから、その点は安心していました」