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はなこのちんじゅつ

花子の陳述

豊島 与志雄

「別冊文芸春秋」1952(昭和27)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,726 字 · 22 页

青空文庫

「お互に、これから、用心することにしましょう。」

言うだけのことを言って、美津子さんはわたくしどもの返事を待たず、ぷいと立ってゆきました。

固より、わたくしどもは電波のことなど信じはしませんでしたが、美津子さんの頭がだんだん変になってくるのを見て、暗い気持ちになりました。母は黙って溜息をつきました。

ところが、こんどのことについては、美津子さんはいやに執拗でした。後でまたわたくしに言いました。

「火事と病気を用心しましょう。」

母にもそれを繰り返しました。

母もわたくしもがっかりしました。二日たち三日たって、忘れかけておりますと、また、火事と病気を用心しましょう。それからまた忘れかけておりますと、火事と病気を用心しましょう。その言葉が、わたくしたちの頭に沁みこみ、わたくしたちの身体を縛りつけるようで、じつに嫌な気持ちでした。嫌な気持ちというだけでなく、どこか心の隅に現実のことのように引っかかってきました。

美津子さん自身にとっては、火事と病気を用心しましょうと、ただそれだけの単純なものではなかったようです。電波の複雑な警告に依りますと、お前にはたいへん悪い病気があって、皆からきらわれるから、気をつけるがいい、という風にも受け取れるのでした。